夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

こまめに水分を摂らせるように。


出来る限り日陰を選び、風当りの良い場所に居るように。


「時間は必ず守ってください」


そして、万が一何かあったらすぐに連絡を、と長谷部先生が脳外科病棟と携帯電話の番号を書いた名刺を先輩に渡した。


「携帯に電話をくれれば、こちらで救急車の手配もできますから」


「分かりました。約束は必ず守ります」


受け取った名刺を財布にしまって、


「行きますか、お嬢」


とタオルケットにぐるぐる巻かれたあたしをひょいと抱きかかえた。


「誰がお嬢だ」


ぷかぷか、巨大なプールに浮かんでいるような不思議な感覚だった。


「先輩、お願いね。翠のこと、頼むね」


母が深々と頭を下げる。


「お預かりします……って、なんか嫁にもらうみたいだな」


先輩があたしを見て、プーッと吹き出した。


「そんなことしたら、夏井に殺されるな。おー、怖い怖い」


「こちらとてごめんじゃ」


先輩の事は好きだけど、でも、嫁に行くなら補欠のとこがいい。


補欠じゃないと嫌。


「相変わらず、失礼な子だなあ」


先輩が楽しそうに笑って、母に言った。


「じゃあ、5時までには戻りますから」


きびすを返した先輩に、あたしは大きな声を出した。


「待って! 先輩!」


キュッとスニーカーが床に摩擦する音がした。


「どうかした?」


帽子のつばを上げて、先輩が覗き込んでくる。


「あのさ、引き出しにお宝が入ってんだよね。取ってくんない?」


「お宝?」


「そ、財宝」


あたしを抱きかかえたまま、先輩は器用に引き出しを開けた。


「それ、その赤いお守り」


ここに再入院になる前に、こっそり、誰にもバレないように、たったひとりで買いに行った。