夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

「ボケっとしてんじゃないよ、翠」


「へ?」


「行って来な! 響ちゃんの応援して来な!」


そう言って、母は相澤先輩に頭を下げた。


「先輩、この通り。連れてってやってくんないかな」


「……おれは構いませんけど。まじで大丈夫なんですか?」


先輩はちらりと先生を見て、心配そうに眉間にしわを寄せた。


先生は目を伏せて唇を噛んで、こぶしを握っていた。


いつもしわひとつない白衣が、こんな時に限ってしわくちゃだった。


「親がいいって言ってんだ。それに、翠が行きたがってんだよ。行かせてやりたいじゃん」


頼むよ、豪快に笑って、母は先輩の背中を遠慮なしにバシバシ叩いた。


「そんな勝手……本当にどうなるか分かりませんよ、お母さん」


ドアの前で、先生が呟く。


「ご忠告ありがと、先生。でも、人生なんてさ、なるようにしかなんないように出来てんだよね。先生」


先生には迷惑かけないよ、と母があたしを立たせようとした時だった。


「こんな非常識な親子は初めてだ」


ポツリと先生が漏らした時、廊下を看護師さんが通った。


「ああ、君!」


ちょっとちょっと、と呼び止められて戻って来た看護師さんは、


「……はい……何か?」


妙な空気が漂っている室内をぐるりと見渡したあと、小首をかしげた。


目がきれいな美人だった。


「消毒とガーゼ持って来て」


「はあ、分かりました」


「それと、あの子」


長谷部先生があたしを指さす。


「暴れてね、自分で点滴の針を抜いてしまったんだ。処置して」


「分かりました」


看護師さんがパタパタと駆けて行った。


戻って来た看護師さんが処置を終えた時、先生が新しく指示を出した。


「あと、何か帽子はないかな」