夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

それがまた、たまらなく嬉しかった。


でも、先生はますます険しい表情になった。



「それは、我が子の命に危険が襲いかかっても構わないという事ですか? 本当にそう思われているのですか?」


「どういう意味ですか」


「本当に……いえ。それは、お母さんの本心ですか?」


睨み合うふたりは、まるで冷たい氷の火花を散らすハブとマングースみたいだ。


どちらも目をそらそうともしない。


その張りつめた、キンキンに冷えた空気を破ったのは母だった。


「ハン! 笑っちまうね!」


嫌味たっぷりに笑って、母が腕を組んでふんぞり返る。


「何だい! 医者もたいした事ないね!」


ダン、と歌舞伎役者のように片足で床を踏み、先生に母が詰め寄る。


目を細めて口を一文字に結び、虎視眈々と先生が母を見下ろす。


「昏睡状態から覚めたばっかでヘロヘロの患者に外出許可出すのが、そんなに嫌か? 翠のためみたいに先生は言うけどさ」


本当は違うんじゃないの?


母の挑発に、先生の目尻がピクリと動く。


「先生が守りたいのは翠の未来じゃなくて、医者として教授としての自分じゃないの?」


「……」


先生は何か言いたそうに口を開きかけて、でも、つぐんだ。


苦しそうに、顔を歪めて。


「地位を失うのがそんなに嫌か!」


母が、泣き出した。


こけた頬をポロポロ伝い落ちる涙を、透明な真珠みたいだと思った。


「こんな小娘ごときに手え焼いて、何が教授様だよ!」


それは、涙に濡れた金切り声だった。


「患者の頼みひとつ聞いてやれないで、何が医者だよ!」


吐き捨てるように言ったあと、母はきびすを返してあたしに寄って来た。