夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

病室に入るや否や、先輩が背中を丸くした。


「あ……」


思いのほかズタボロのあたしに、言葉を失った様子だった。


先輩……。


本当に迎えに来てくれた先輩を目の当たりにした途端、大きな安心感に包まれて、一気に無駄な力が抜けていった。


「せんぱ……」


ふわりと後ろに倒れ込んだあたしをとっさに支えてくれた母が、勇ましいジャンヌダルクに見えた。


「面会かな、ごゆっくり」


わざとらしくそそくさと出て行こうとする先生を、


「いや、おれは……あのっ!」


相澤先輩が引き止めようとした時だった。


「ちょいと先生!」


大人しかった母が、遂に本性を現した。


「先輩、ちょっと来な! 翠を頼む」


「えっ」


「いいから、早く来な!」


「ああ、はい!」


母はあたしを先輩に託すと、ドシドシ足音を立てて先生の側まで詰め寄った。


「大丈夫? 翠ちゃん」


「へーき」


先輩に体を預けながら、少し笑ってしまった。


母が野生のクマに見えた。


今にも獲物に噛み付きそうな、美しい獣だ。


「黙って聞いてりゃ、頭ごなしにダメダメダメって! あれもダメ、これもダメ! じゃあ、何だったら良いってんだい!」


母に威嚇された先生はギョッとして「うっ」と声を漏らしたあと、一歩後ずさりした。


あたしを支えながら、先輩は感心したように「おお」なんて声を漏らす。


容赦なく、母の罵声が病室に響いた。


「先生知ってんのか?」


母が先生を睨みながら、窓の外に広がる青空を指さした。