夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

「力になってあげられなくて、申し訳ない」


先生が踵を返す。


「先生!」


「翠」


止めようとする母を振り切って、その背中に叫んだ。


「何でだよ! じゃあ、先生は保証できんの?」


あたしの寿命を、保証してくれる人はいないのだろうか。


「あたしがこの先、どれくらいまともに生きて行けるか、先生はそれを分かって言ってんの?」


次また再発しても、後遺症が残らないという保証はどこにもないのに。


「あたしの寿命、先生に見えるのかよ!」


あたしは号泣しながら、我を忘れて、両手で床を叩いた。


ドアの前で、先生が立ち止まった。


隣で、母が息を殺していた。


静寂に包まれる病室に入ってくるのはアブラ蝉と、暑い夏の乾いた午後の風だけ。


背中を向けたまま、先生は淡々とした口調で言った。


「見えないよ。でも、完治する確率はゼロではないかもしれない」


希望を捨てて、自暴自棄になってはいけないよ、と。


「今は、自分の体を最優先して欲しい」


それなら、とあたしはシクシク痛む腕を押えて、右に左にふらつきながら立ち上がった。


「なんて無茶を……」


あたしを見つめる先生は、まるでゾンビを見るような目をしていた。


「じゃあさ、先生。こっちも言わせてもらうけど」


それでいて、憐れむような目だった。


「明日、あたしがこの世に居ない確率もゼロじゃないって事だよね!」


開いた口がふさがらなかったんだと思う。


先生はまんまるに口を開けて、そこに突っ立って、あたしを見ていた。


間もなく、廊下の向こうからバタバタと足音が聞こえて来て、相澤先輩がやって来た。