夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

あたしは今、卑怯な言葉を簡単に口にしたのだ。


死んでもいい、なんて、最低な言葉だ。


それでも、誰になんと思われようとも引き下がるわけにはいかなかった。


もし、また倒れてしまう事になろうとも、この命が燃え尽きようとも、諦めるわけにはいかない。


「ごめん、先生。でも、あたし、これ以上後悔したくないよ!」


後悔に後悔しながら生きて行くくらいなら、どんなむちゃくちゃをしても、苦しい思いをしても、その方がずっといい。


「翠さんの気持ちは分かります」


あたしの前にしゃがみ込み、先生はあたしの体をゆっくり起こした。


「後悔はしたくないよね。僕も同じです」


病衣を貫通して、先生の手から伝わってくる温かさに、涙があふれた。


「だけどね、外出を許可する事はできません。どうしても、と言われてもできません」


おおらかな瞳に、泣きっ面のあたしが映っていた。


自分の泣き顔がたまらなく間抜けに見えた。


「まず、腫瘍より先に、この炎天下の方が危険です。今の君の体力では熱中症になってしまう。それこそ命にかかわる」


語りかけるように話す先生を見ていると、心が凪いでいった。


「先生、ごめんね。困らせてすまんね。けどな、あたし……どうしても、どうしても行きたいんだ」


白衣の胸元を掴んでしゃくり上げると、長谷部先生は不思議な顔をした。


ひどく困っている、でも、微笑んでいた。


あたしは頑固親父よりも倍頑固な女子校生じゃないかと思う。


だけど、長谷部先生はもっと頑固だ。


普段やわらかい性格の人間が一度こうなると、本当に面倒だ。


「命を粗末にしなさいと言う医師は、どこを探したって居ませんよ」


意地でも折れまいと頑張り始めるのだから。


「んな事、あたしだって分かってるよ。けどさ」


先生は頑として、頷こうとしない。


「僕にはできません。許可できません」


そう言って、あたしの手をほどきながら、先生はスッと立ち上がった。