夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

桜花戦の疲れでくったくたになってるだろうな。


あんなケンカみたいな取っ組み合いみたいな、取って取り返しての試合したんだから。


あたしの事なんか考える余裕もないんだろうな。


忘れてるかもしれない。


なにせ、明日はあれほど望んだ決勝が控えてるんだから。


あたしの事なんか……。


少しだけでもいいからあたしの事を考えてくれていたらいいのに、なんて淡い期待を抱きながら、あたしは母に話しかけた。


「ねえ、お母さん」


でも、返事はない。


寝返りを打ってみると、あったはずの母の姿はそこにはなかった。


「あんらあ?」


トイレにでも行ったのかな。


まあ、そのうち戻るだろ、と寝返りを打ち再び窓の外を眺めた。


夏の西風が入って来て、心がすうっとした。


風の感触が心地良くてうとうとしているとカーテン越しから、


「翠、寝たの?」


母の優しい声が聞こえた。


淡い微睡から抜け出してハッとした。


「……お母さん? どこ行ってたのさ」


カーテンに背を向けたまま聞くと、母が答えた。


「花瓶の水、取り替えて来たんだよ」


「そっか」


夏空が鮮やかな朱色に、まんべんなく染められて行く。


「お母さん。見て。夕陽。きれいだと思わない?」


「うん」


「あたしみたい」


「きれいだね」


フフ、と母の笑い声がカーテン越しに小さく広がる。


「お母さん」


「何?」


「さっきの話の続きなんだけど」