先輩が結衣と明里を乗せて帰ったあとの病室で、母が可笑しそうに笑った。
「翠は、響ちゃんの事ばっかだな」
補欠の事ばかり話すあたしに呆れてしまったのかもしれない。
「別にいいだろ。聞いてよ」
でも、とにかく誰かに話したくて話したくて、どうにかなってしまいそうだった。
初めて補欠を見かけた、あの日の事。
入学式の日、運命を感じてしまった事。
ファーストキスの場所は、夜の教室だった事。
初めてのケンカに仲直り、幾つか交わしたふたりだけの約束。
話し出したら、キリがなかった。
「でさ、その時、補欠がさ」
勝手に口が動いて、気づくと補欠のことばかり話し続けていた。
開け放たれた窓からひぐらしの声がカンカン響いて入って来る。
「あ、そうだ」
あたしの話を中断させて、母が意味深にフフと笑った。
夏の夕空を、大きな雲がのろま足で流れて行く。
「まだ、途中にしたままだったな」
「何が?」
聞くと、母が楽しそうに笑った。
「ほら、お前が始業式の最中に倒れて運ばれた日。結衣たちを送るからまた後でなって、そのままになってた話」
「……ああ、そうだったな」
で、何? 、聞くと、母はひとつ頷いて、あたしの顔を指さした。
そして、ブハッと吹き出した。
「お前、太陽なんだってさ!」
「はあ? あたし?」
「そうさ。太陽。初めて会った時、響ちゃんが」
―翠は、おれにとって太陽みたいなもんですね
「……って、言ったんだ」



