欲しくて、欲しくて、欲望に任せて執着して、むさぼる。


夏井響也の彼女になりたい。


それが叶ったら今度は、彼の一番になりたくなった。


彼の全部が欲しくなった。


過去も今も未来も、全部。


「夏井翠」になりたい。


どこまで行けば、人の欲に終わりが訪れるんだろう。


人間の欲望という貨物を乗せた列車に、終着駅はあるんだろうか。


生きている限り、終わりなんてないんじゃないだろうか。


「補欠……健吾……」


あたしは、ふたりの手を強く握り返した。


可笑しくて、笑えた。


なぜか、ふたりとも泥んこの手をしていたから。


ここに、あたしに会いに来るまでのふたりの道のりに、何があったのかは分からない。


だけど、何かがあったのは確実なんだと思う。


ふたりの泥んこの手がやけに温かくて、だから、真相は探らないでおこうと思う。


「あたしに、最強の夏を、ちょうだい」


ヘヘ、と笑うと、ふたりは目をキラキラ輝かせて笑った。


「よっしゃ! 翠の頼みならしょうがねえや! おれと響也にまかしとけ!」


ガハハ、健吾が豪快に笑った。


「南高の野球部なめんなよ!」


ガツガツした口調をしたくせに、クスクス、補欠は優しい笑い方をした。


欲しい、欲しい、欲しい。


欲しくて、たまらない。


あたしたちの未来は先が見えない、闇の中。


けれど、その先にきっとあるひと筋の光。


そこを、ひたむきに目指して、あたしたちは手を繋ぎ歩き出した。


歩幅の違う足で、だけど、決してはぐれてしまうことのないように、しっかり手を繋いで。


それは、切ない夏を目前にした、春の空に七色アーチがきれいに架かった日だった。


あたし、決めたんだ。


この夏に。


ふたりがくれる夏に。


補欠の一球に、あたしの人生をかける、って。