夏の空を仰ぐ花 ~太陽が見てるからside story

「照れんなよー、やるじゃーん! 健吾」


うりうり、と肘で突くと健吾はあからさまに迷惑そうな顔をして、がっくり肩を落とした。


「翠にほめられてもうれしくねえのは、なんでだろう……」


「なにっ!」


「健吾、良かったな。間に合って」


健吾の右肩を、補欠がポンと叩く。


「うん。まあ、な」


それにしても、と健吾が物思いにふけったため息をついて、改札口を見つめた。


「かあーわいかったなあー! あっこ」


「「はっ?」」


あたしと補欠は拍子抜けして、間抜けな声を出していた。


「見たかあ? あの笑顔。かわいかったなあー!」


たまらんなあ、とエロオヤジみたいにヘラヘラする健吾を見て、補欠がプッと吹き出した。


「何だよ、笑うな。親友はハートブレイカーだってのに」


そんなことを言いながらヘラヘラ笑う健吾は、見ていられなかった。


無理しているのが、明らかにミエミエだ。


第二ボタンだけが無い、学ラン。


笑顔の下の、今にも泣き出しそうな顔。


そんなズタボロ健吾に、あたしは心の中で拍手を送った。


切なくて、たまらなかった。


「お前、えらい約束しちまったな。絶対甲子園行くとかさ」


補欠が言うと、ああ、と肩をすくめた健吾が、あたしからスポーツバッグを奪って、ひょいと背負った。


「行くんだよ、甲子園。何が何でも、行くんだよ」


とニヤリと笑った健吾の目に、迷いなんてものはひとつも感じられなかった。