うっ、と補欠が声を漏らした。


「翠、ちょっと苦しい」


苦笑いする補欠を無視して、あたしはもっと強く抱き付いた。


「いいじゃんか。減るもんじゃなし!」


くっつける時にくっついとかないと、勿体無いったらない。


だって、放課後は野球に明け暮れてしまうから。


朝くらいだ。


大好きな補欠に全力でひっついていられる時間なんて、朝くらいだ。


「けど、そんなしがみつかれると……さすがに苦しい」


「やだ! あたしは離れんぞ!」


「……まいったな」


「まいれまいれ! まいってしまえ!」


放心状態だった健吾が、


「まーじーかーよー!」


ぐああっと悶えて、両手で頭を抱えた。


「ありえねえ! この世の破滅の時がついに来たか!」


寄りによって翠! 、そう叫んで、健吾は自転車のハンドルにうなだれてしまった。


「いったい何があったんだよ、何で翠なんだよ! 響也!」


でも、突然、健吾はバッと顔を上げて、


「おうおうおう、翠」


補欠に抱きつくあたしの肩をぐいっと引っ張った。


「触るな! 何をするか! バカ健吾」


「お前は引っ付き過ぎだ! 朝っぱらからこんにゃろー。離れろ!」


「何だとー!」