『マクシム様に、お願いしたいことがございます……どうか私の退役を認めて頂けないでしょうか?』

 バルディグから戻ってきたレオニードが、申し訳なさそうに、けれど揺らぎのない眼差しで口にした願い。

 幼少の頃からの付き合いだから分かる。
 こちらが何を言ったとしても、考えを変えるつもりはないのだと。

『……それがお前の望みなら、余は引き止めない。ただ、一つ聞かせてくれ。どうして退役しようと思ったんだ?』

 責任感の強いレオニードのことだ。戦うことに疲れた、兵士が嫌になった、というものではないだろう。

 何か重要な理由があるはず。
 一人の友として力になれることはあるだろうか?
 そう思っていると、意を決したようにレオニードの目に力が入った。

『実は、藥師を目指すために、みなもへ師事したいと思うようになりました。どうかここを去り、みなもの元へ行くことをお許し下さい』

 みなも――レオニードと恋仲にある、黒髪の優秀な藥師の青年。
 事情を知っているだけに、彼の言葉の裏がすぐに読めた。

『つまり、愛する人のために生きたいってことか。まさかお前が男相手にそんなにのめり込むとは思わなかったぞ』

 からかいの言葉ではなく、心の底からの本音だった。
 相手が男というだけでも驚きだが、ここまでレオニードが恋に生きる人間だとは思わなかった。

 この手の話に慣れていないレオニードは、わずかに目を泳がす。
 が、小さく息をついてから『実は』と口を開いた。

『マクシム様にだけは真実をお伝えします。今まで隠してきましたが――みなもは女性です』