生徒会室から出て廊下を歩いていると、夕吉にとって唯一といっても過言ではない見知り顔を見つけた。
(…九十九千晴、)
向こう側から、よたよたとやけにゆったりとした独特の歩調。
周りを歩く人間は、女子、男子、教師ですら千晴を避けるようにしている。
避けられている事に気付いてないのか、気付いてないフリをしているのか分からないが、千晴は冷たい顔をしていた。
それは、
夕吉にとって、初めて見る顔だった。
図書室では、いつもヘラヘラ笑う一般的な女子だ。
そして、何をするにも本を触ることすら慎重に、まるで触れたら傷つけてしまうんじゃないかと思っているかのように怯えている臆病な子。
「あ、徒野くん」
突如、千晴のまとう空気が一変する。
にこにこと機嫌が良さそうな顔で、ゆらゆらりとそのまま夕吉のところへ近付いてきた。
明らかに態度を変えるなあと夕吉は感心する。
「徒野くん、今から図書室に行くところ?
「いや、今日は行かない」
「え!?なんでなんで」
「寄るところがあるから」
残念そうな顔を浮かべる千晴を見ると、夕吉の胸が微かに痛んだ。
もしかしたら自分は、彼女に生徒会長とのやり取りを話したがっているのかもしれないと、夕吉は他人事のように思った。


