「それで?」
夕吉は、さっきまで開いていた本を、パタン、と閉じ、目の前で拗ねたフリをする男に視線をやった。
この男は、フリが多い。
笑っているフリ。
怒っているフリ。
困っているフリ。
本心が全く見えない。
「不良の番長、片付けてもらおっかな」
そう言って、生徒会長 縹 吾平(はなだ あいら)は、また笑った。
華やかに。
「嫌です」
「却下」
「却下を却下」
立ち上がって扉に向かう夕吉の背中に吾平が声をかけた。
「引き受けてくれたら、図書室に毎月入荷する本の量を増やしてやんよ」
ぴたり。
扉の前で立ち止まった夕吉は、首を動かし顔を、くるりと吾平へ向けた。
黒い目玉と、吾平の色素の薄い灰色の目玉が合う。
「番長は近衛隆太。俺と同じ三年生で、部活は勿論帰宅部で大抵子分達を従えて旧校舎に生息。見た目は爽やかキュートボーイだが実は合気道を心得ているという、これは俺も驚いた。…で後、子分は二十から三十人くらいかなぁ…以上」
すらすらと吾平の口から出てくる情報の必要な部分を頭に入れる。
生徒全員の事細かな情報までを知っている生徒会長は、この男ぐらいだろう、と夕吉はほんの少し感心した。
「期待は、しないでください」
とだけ残して、いつものように表情の無いまま夕吉は生徒会室を出て行く。
「期待してるぜ」
吾平は、いつものように笑って見送る。
笑ったフリで。


