舌が這う。手に、俺の、血が、夏川の、上目遣いで。
「は、はは……」
訳も分からず笑った。
狂いそうだ。上の立場たる俺が、こんなことでときめき、嬉しいだなんて。
一瞬、夏川に感情全てを持っていかれた気がした。
俺の立場。夏川の全てを貰うのは俺なのに、持っていかれてしまった悔しさ。
プライド?自尊心?
はなはだ可笑しい。
落ち着け、俺。
俺も一端の人間ということだったわけだ。
いつか必ず手に入る。
今日くらい。
「ありが……とう」
呟き、その場をあとにした。
他人の優しさに浸る人間はこうなる。
普通のことだ。
だが、俺にはそれが許せない。
普通ではいけないんだ、支配者というのは。
夏川を支配するためにも、外界から守るためにも。