いつどのタイミングで入ろうかと中の様子をうかがっていると扉の向こうから声がした。 「いい加減に入れ」 テノールの男の人の声。 優しく響いたその声が渡さんのものだということはわかりきっていた。 シューズを脱いで下駄箱におき、ガラガラと音をたてて扉を開けた。 そこにはカウンターに座ってファイルを整理している渡さんの姿があった。 「あぁ、座って」