「華央を見逃してしまうかもしれないぞ。」

「また来年がある。
華央は消えはしない。毎年雪とともに舞い落ちる。
今は…自分の時間をゆっくり進めたいんだ。」



そう言った朝霧紫紀の顔は決して寂しそうなんかではなかった。
むしろ前だけを見つめているような真っすぐさがはっきりと分かるほどだった。



「華央を失ってからの8年間はあまりにも早すぎた。
しばらくはゆっくりと…生きてみたい。」





不意に握り返されたその手。
私が手を引いていたということを忘れていた。





「ありがとう。」

「なんだ?」

「ここに連れてきてくれて。
俺一人ならば、こうして雪に触れようとは思わなかっただろう。」

「…そうか…。」

「だから…ありがとう。」




紫色の真っすぐな瞳が、少しだけ和らいだように見えた。
その口元は本当にわずかだが、優しく微笑んでいるようにも見えた。


その顔を直視していられなくなって、私は顔を背けた。