「石黒」
車に乗った石黒に声をかける。
心なしか、
涙ぐんでる気がして。
「丘谷さんに状況説明しといてもらって。朱里の口から話さなくて済むように」
「分かった。伝えてもらう」
一応、奥の先輩にも頭を下げて。
石黒を乗せた車は、
低い音を立てて去って行った。
「帰るぞ」
俺は伸ばしかけた手を、
引っ込めた。
これ以上朱里に触れたら、
帰したくなくなる。
そう思ったから。
2人で並んで歩きながら、
普通の会話をした。
何でか、朱里とだったら、
何個でも会話が思い付く。
笑えるし、怒れるし、
何でも話せる。
やっぱりこんな感じ、
朱里以外いねーわ。
「今日は本当にありがとう」
朱里の家の前に着き、
寂しそうな顔で別れを告げる。
朱里が俺のもんだったら、
もう少し歩こうって言ってたかも
しれねぇ。
このままどこかへって、
なってたかもしれねぇ。
「着いたら、また連絡する」
「分かった。気を付けてね?」
頷く朱里を。
抱き締めたくて。
手に入れたくて。
守ってやりたくて。
「朱里」
中に入ろうとした朱里を。
名残惜しそうに、
呼び止めて。
「夜中でもいいから。怖くなったら連絡しろ」
そう告げた。
これからも俺が守るから。
そんな意味を裏付けて。
小さく手を振って、
俺は家に向かった。
絶対俺がカタをつける。
絶対俺が、守ってやる。
どんなことをしてでも、
つきつめてやる。
もう俺は、
そうするしかねえから。