「石黒が今から来てくれるって」
「うん、ありがとう」
その瞬間。
卑怯な俺は、
朱里に手を差し出した。
「場所、変えるぞ」
すると朱里はためらいもなく、
俺の手を取った。
俺はその手を握って、
暗闇の中を歩いた。
この小さな手を持つ朱里を、
怖い思いさせた奴らと。
咲坂だけは絶対に許さねえ。
「朱里!」
学校に着いてすぐ、
校門の方に車が停まった。
そこから出て来る石黒は、
なりふり構わず走って来て。
朱里を抱きしめた。
「麗華、ありがとう」
「大丈夫だった?何もされてない?痛いとこは?」
「大丈夫だよ、ごめんね」
「ほっぺ、腫れてるじゃん…もう、誰よ、こんな…」
そんな2人の会話を、
少し離れた所で聞いている
丘谷と仲良い先輩。
「怖かったよね…」
「大丈夫。十夜がね、来てくれたの」
そう言う朱里の後に。
「朱里ちゃんを助けてくれてありがとう」
なんて言うもんだから。
「朱里のためなんで」
子どもみたいにムキになって、
そいつを睨んで言ってやった。
何が助けてくれてありがとう、だ。
てめぇのためじゃねぇよ。
「朱里、もう帰るよね?」
「そうだ。よかったら、送って…」
だから。
誰もお前は呼んでないから。
俺が呼んだのは、
石黒だから。
「いいです。俺が送って行きますから」
悪ぃ、石黒。と。
石黒には謝罪の言葉を入れて。