「十夜が、好きなの…」
「うん」
「高原さんよりも、あなたを必要としてるわ」
「俺は、必要とされる人と一緒にいてやるボランティアの人間じゃねえ」
何か言いたそうな咲坂は、
タクシーの運転手さんの声に
よって遮られた。
「ごめんねえ、遅くなって」
「駅前に向かって下さい。後は本人が言うと思うんで」
自動で空いたドアに、
乗り込もうとしない咲坂。
困っている運転手さんを、
気にしてなくて。
「乗れよ」
呆れ気味にそう言うと、
首を振ってしゃがみ込む。
「これ料金で。お釣りあったら、渡して下さい」
「十夜ぁ…やだよぉ、」
「運転手さん、困ってるから」
目の前に立ってはみるけど、
触れることはせず。
上から言葉をかけ続ける。
「咲坂、俺もう行くから」
「え、待って…」
「じゃ、後お願いします」
タクシーの運転手さんに声をかけ、
背中を向けて歩き出す。
後ろから悲痛な叫び声と、
なだめる優しいおじさんの声。
俺は耳を塞ぎたい気持ちで、
輝の家に向かった。
思ったよりも遅くなったな、って。
もう俺の頭の中は、
そんなことしか考えていなかった。
