「あなた、見て下さい」
「ああ、蛍だね」
夏、夕涼みに出た私と夫は、通り掛かった神社の脇の小川で、今年初めての蛍を見つけた。
まだ新しいその光は、少し弱々しさが残っていた。
だがはっきりと、闇夜に支配されかけている薄暗い景色を、穏やかに照らしていた。
健気に、懸命に、ここに居るよと、自分の存在を、その意義を、全てその尾の光に乗せて……。
「綺麗」
「本当だね」
私と夫は、しばらくその場に佇み、蛍の光を見つめていた。
水辺に咲く山百合の葉から、ふわりと蛍が離れる。
「あっ………」
「行かせてあげなさい、咲子」
手を伸ばし、それを掴もうとした私を夫が止めた。
「あんなに綺麗な蛍を、独り占めしてはいけないよ?他の人の目も楽しませてあげなくては」
振り向いた私に、夫は優しく言葉を続ける。
「僕達が蛍を見て幸せな気持ちになれたのなら、それは誰も同じ事なのだから」
「ええ、そうですね」
そんな夫に笑顔を返す。
夫もまた笑い、私へと手を伸ばす。
「ああ、蛍だね」
夏、夕涼みに出た私と夫は、通り掛かった神社の脇の小川で、今年初めての蛍を見つけた。
まだ新しいその光は、少し弱々しさが残っていた。
だがはっきりと、闇夜に支配されかけている薄暗い景色を、穏やかに照らしていた。
健気に、懸命に、ここに居るよと、自分の存在を、その意義を、全てその尾の光に乗せて……。
「綺麗」
「本当だね」
私と夫は、しばらくその場に佇み、蛍の光を見つめていた。
水辺に咲く山百合の葉から、ふわりと蛍が離れる。
「あっ………」
「行かせてあげなさい、咲子」
手を伸ばし、それを掴もうとした私を夫が止めた。
「あんなに綺麗な蛍を、独り占めしてはいけないよ?他の人の目も楽しませてあげなくては」
振り向いた私に、夫は優しく言葉を続ける。
「僕達が蛍を見て幸せな気持ちになれたのなら、それは誰も同じ事なのだから」
「ええ、そうですね」
そんな夫に笑顔を返す。
夫もまた笑い、私へと手を伸ばす。