高台に向かう中、抱えていためぐみの息子を下ろして一度だけ後ろを振り返った。 「早く!早く!」 「呑まれるぞ!!」 住人達の怒号のような声を聞いて足がすくんだ。 あと何メートル、何センチ… 距離がわからなかった。あとどれくらい走れば高台に着くのかすらわからなかった。 頭が真っ白になって、後ろを走っていた人達が波に呑まれ…手を繋いでいためぐみの息子も前にいためぐみやめぐみに抱かれた下の娘も、私も波に呑まれていた。