それからはただ逃げるしかなかった。

子供達を抱えて、何も持たず…携帯だけはポケットに入っていたからそれだけは持ち出せた。


家から離れる間、すぐそばからけたたましいサイレンが鳴り響き、私はそれが何かわからなかった。


「津波!津波のサイレン!」


隣で青ざめるめぐみの"津波"と言う言葉にまるでピンとこなかった。

北海道で生まれて、東京に引っ越して来た私には"津波"と言うものは全く縁もゆかりもない代物だった。
テレビで海外のを見て「あぁ、大変だなぁ」くらいにしか思ってなかった。

それが今、自分の身に降り懸かっているなんて思いもしなかったんだ。


「高台に逃げなきゃ!」

「う、うん…」


気仙沼市は津波警報が発令しやすいのか、めぐみは下の子を抱えて走り出した。
私も上の子を抱えてめぐみを追い掛けて走った。


その時には、もうすぐそこまで悪魔が手を伸ばしていたのに私もめぐみも…避難しようと走る人達も気づかなかった。