リュックの中には500mlのペットボトルに入った水が三本と菓子パン、それにカッパや懐中電灯など非常時に必要な物が詰め込まれていた。


「東京に戻るなら被害の少ない場所から車じゃないと行けないから。それまでそれでどうにかしなさい。」

「貰えません!」

「良いから…おじさんはこれくらいしかしてやれんから…」


水も食料も…これから避難所にいるなら絶対に手放せないはずなのに清水さんは当たり前のように私にそれを渡してくれた。

自分が大変なのに他人を気遣えるのは土地柄なのか、それとも人柄なのか…きっと両方なんだと思った。


「……これ…これだけ頂いても良いですか…?」


私が手にしたのは水のペットボトル一本。

人は水さえあればどうにかなる。だから水だけをお言葉に甘えるように一つだけ頂く事にした。


「これで十分です。清水さんは私を助けてくれた恩人です……必ず戻ってきます。だから…」


元気でいてください。

それが言えなかったんだ。こんな残酷で悲惨な状態で優しくしてくれた井上さんにも新田さんにも…命の恩人の清水さんにも。

一日でどんなに泣いたかわからないくらい泣いたのにまた涙が止まらなかった。