僕の愛した生徒



それから十分が経っても、前の車は動く気配がない。

僕はため息を付きながら、左足でサイドブレーキを踏み、右足のブレーキを離した。


隣には相変わらず気持ちよさそうに前だけを見ている奈菜。


「奈菜、疲れないか?」

「疲れないよ。どうして?」

「長い間、乗っているだけってのも辛いだろ?」

「そんなことないよ。
逆に嬉しい。
だって、それだけ秀と長く一緒に居られるんだもん」


そう屈託なく言った奈菜は
再び携帯を取り出して開き、直ぐにそれを閉じて仕舞った。


「秀、今お母さんから返信が来て
“あまり遅くなるようなら泊まらせてもらいなさい”って」


嬉しそうに言った奈菜に、“そうか”と返事をしたが……



ちょっと待て。

それはさすがにマズいだろ。



僕は恐る恐る奈菜に訊いた。


「メールになんて打ったんだ?」


奈菜はもう一度、携帯を取り出して、そして自分の送信したメールを読み上げた。


「[今、みっちゃんの家で夏休みの宿題をしているんだけど、まだまだ終わりそうになくて遅くなります]って。私にしては上出来な嘘じゃない?」



みっちゃん?

あぁ、奈菜といつも一緒にいる三津谷の事か。


“宿題”とゆう言葉を持ち出したのはいいけどな。

普通はバレるだろ?

まぁ、高校生がよく使いそうな嘘でもあるけれど。



「でも、泊まるのはダメだろ」

「どうして?」


キョトンと上目遣いに見る奈菜。



奈菜は男と一晩過ごすって事の意味を知っているのか?



「どうしても!」

「そしたら私、今日は帰るところが無くなる」



だよな……。

奈菜のお母さんも、深夜に娘が帰ってくる方がいろいろ心配だから泊まって来てもいいっていったんだよな。


車もとても動きそうにないし……



「秀?」


奈菜は心配そうに僕を見つめ、不安そうな声で呟いた。



さて、どうしたものかな?