僕たちは再び車に乗り込み帰途を辿る。
「今日は楽しかったね」
「そうだな」
僕は繋いだままの奈菜の手を強く握った。
車を一時間ほど走らせた頃、
窓の外は暗くなり、雨の滴がポツポツと車のフロントガラスを濡らし始めた。
さっきまでいい天気だったのに。
雨か……
そして次第に強まる雨。
それは車の中のステレオから流れる音楽をかき消すほどに大きくなっていった。
そして車内は雨音と、その中で微(かす)かに聞こえる音楽だけが僕たちを包み、
それが妙に心地よくて
ふと隣を見ると、奈菜もまた、心地良さそうに前だけを見据えていた。
僕は繋いでいた奈菜の手を離して両手でハンドルを握り、前だけを見つめる。
規則正しく、忙しそうに動くワイパー。
「ごめん、雨の中の運転は片手ではしにくいんだ」
「そうなんだ。
雨も激しいもんね」
それからしばらくして、
高速道路を走っていた僕たちの車は止まった。
前にはぼやけた赤いテールランプが、まるで線のようになって長く続いている。
「渋滞か」
車内の時計に目をやると20時前。
「9時までに着けそうにないな。奈菜、家に電話をしとけ」
奈菜はポケットから携帯を取り出して、メールを打ち始めた。
「メールじゃダメだぞ。ちゃんと電話をしろ」
「でも、何て言うの?
“先生とデートをしてて、その帰りに渋滞にあって遅くなる”って言えばいい?」
奈菜は冗談めかして、
その後、今度は困ったような顔をして続けた。
「私、電話で嘘を通す自信がないよ?」
確かに……奈菜には無理だよな。
自分でも嘘がつけないって事
自覚していたんだな。
「メールでいいよ」
僕が言うと、奈菜は再び指を動かし始め、しばらくすると携帯を閉じてそれをポケットに戻した。



