三十過ぎの大の男がウサギを抱いてヨシヨシする。
そんなの出来る筈はない。
「似合わないね」
奈菜は苦笑いを僕に向けた。
「そうだろ?」
奈菜は頷くと、しゃがんでウサギをそっと下ろした。
そして、立ち上がり服の汚れを払うと、出口で手を洗い、鞄からデジカメを取り出してシャッターを押していった。
それからも奈菜は僕の前を歩き、
目指す場所へと進んで行く。
よそ見をしながら歩いている奈菜。
その時
奈菜が躓いて転びそうになった。
僕は慌てて奈菜の胸に腕を回し、
それを抱きとめる。
その体は僕が思っていたよりも
ずっと軽くて華奢だった。
僕は奈菜を何度も抱きしめた事がある筈なのに……
何で気づかなかったんだろう?
「大丈夫か?」
僕は声を掛けながら奈菜に回していた腕を離した。
「うん、大丈夫。ありがとう」
奈菜は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに答えた。
「前を見て歩けよ。
気をつけないともう少しで転ぶところだったぞ?」
「ごめんなさい」
奈菜は子犬のような目で僕を見上げ、しょんぼりした。
「まったく……
仕方ないな。ほら?」
僕が再び奈菜の前に手を差し出すと、奈菜は“ありがとう”
と僕よりも一回り小さな手を出し僕の手をギュッと握った。
僕はその瞬間、
僕がこの手を引いていきたい……
引かなければならない。
そんな風に感じた。
そして僕はその小さな手を握り返した。



