それから少しの間、僕の腕の中で
子どものように泣きじゃくった奈菜。
僕は何も言わず、そんな奈菜を包み込む。
腕から伝わる奈菜の体温が温かい。
でも、僕はもっとそれを感じたくて
更に腕に力を込める。
しばらくして、顔を上げた奈菜は
「先生、苦しいよ」
と、瞳を濡らしたまま笑った。
“ごめん”と、僕は慌てて腕を解く。
それにクスクス笑う奈菜。
それは僕だけに見せる奈菜の顔。
それに、初恋にも似たドキドキが
僕の躰に広がり、甘酸っぱささえ感じさせる。
一度止まった時間が再び動き始めた瞬間。
僕はもう一度、奈菜に腕を回した。
「今度はちゃんと責任を果たすから」
奈菜は“責任?”と僕を見上げて
不思議そうに首を傾げる。
「そう、責任。
だって、教え子に手を出すわけだからさ」
「私、そんな責任なんかいらないよ」
奈菜はあっけらかんとそう言った後で
「私は先生の心が欲しい」
と続けた。
春風がそれに舞う桜の花びらを乗せて、僕たちの元に運ぶ。
「それなら、大丈夫。
僕の体も心も、もう奈菜だけのものだよ」
僕は奈菜の額にキスを落とした。



