再び桜が舞う季節。
僕は異動もなく、今年度は持ち上がりで、二年生のクラスを受け持つことになった。
そして
奈菜は三年生になり、
入学当初は真新しかった制服も、
今ではすっかり奈菜に馴染んで
上手に着こなしている。
あどけないと思っていたあの面影も今はもうなくなっていた。
学校では午前中の始業式を終えた生徒たちが次々と下校していく。
その中で、午後からの入学式を控え、礼服に着替えを済ませた僕と奈菜は廊下ですれ違う。
その後で、ほんわか漂ってきた
あの香水の…奈菜の香り。
すべてがスローモーションになり
その場に思わず立ち止まる僕。
僕の脳裏に奈菜と過ごした時間が蘇った。
奈菜……
振り返る僕の中に、止むことがない想いが溢れ、零れ始めた。
この場を今すぐに駆け出して
小さくなっていく背中を捕まえたい。
けれど……
あの日、奈菜がまことしやかについた嘘。
それが僕をこの場に留めようとする。
あれは、きっと……
僕に賭けをしただけではなく
奈菜は始めから、僕に別れを切り出させるつもりだった筈。
『秀、ずっと辛そうだった……
私といてもずっと苦しそうだったんだもん』
この言葉が全てを物語る。
僕をあの辛さから解放するために
奈菜はわざわざ浮気を偽った。
僕が許さないことを見越していたから……
その後も僕が傷つかないように、
傷が浅くすむように、
自分の非を理由に、別れるように仕向けた。
別れた後の、僕の奈菜への言動も
奈菜は全て承知の上で、それを受け止めるつもりでいたんだ。
だから、僕に反論をすることも無かった。
そんな奈菜の思いを汲み取るなら
奈菜の幸せを願うなら
僕は決して一歩を踏み出してはいけない。
……そんなことは、分かってる。
分かっているんだ。
僕は足の横で両手を強く握る。
でも…僕は……
その時、耳の奥で直江先生の言葉が響いた。
『本物の想いなら貫けよ』



