表情が豊かだった奈菜はどこにいってしまったんだろう?
僕の知らない奈菜を目の前にして
言いようのない衝撃を受けた僕は
「…ごめん……」
と、奈菜に回していた腕を力無く解くと、
奈菜の頬には、長い睫が影を作り出していた。
どうして僕は今、奈菜を抱きしめてしまったんだろう?
もう、やり直したいなんて思っていないし、
どうこうしたいとも思わない。
でも
ただ…体が勝手に動いていた。
「藤岡…ごめんな。
こんなことをしてはいけないのに」
「………………」
「それと、授業の時とかは仕方ないけど、それ以外は関わらないようにするから安心して?」
僕に対して、一瞬でも怯えた素振りを見せられたなら、
こう言って、少しでも奈菜を安心させてやらなければならない気がした。
でも、相変わらず僕を見ようとはしない奈菜。
僕はこの重たい空気を変えようと
「そうだ。
藤岡、ずっと好きな奴が居たんだってな?
気づいてやれなくてごめんな」
と、明るく繕った。
それに目を見開いた奈菜。
そして、僕を熟視する。
「そいつのこと、頑張れよ」
僕が続けて奈菜に“応援してるから”と微笑んで見せると、
奈菜の瞳は大きく揺れた。
「…それは……」
絞り出すような奈菜の声。
僕はその続きを静かに待つ。
その間、解かれることがなかった僕たちの重なる視線。
奈菜の大きな瞳は潤み、それが光った。
「それは……」
かすれる声の奈菜は視線を下に移すと、
「…すみません。
もう、部活が始まる時間なので
失礼します」
そう慌てて背中を向けると、
僕の前から走って立ち去った。



