その日の放課後。
僕はどうしても春休みに入る前のこの日に、
今までのことを奈菜に謝っておきたくて、
部活に向かう奈菜が通るであろう合宿所の前で、奈菜を待っていた。
生徒たちの声が遠くの方から聞こえてくるだけのこの場所。
その声が、速くなる胸の鼓動と、程良い緊張を抱えた今の僕に僅かな安心感を与えた。
しばらくして
僕の目はジャージ姿で一人歩く奈菜を捉える。
そこで偶然を装って歩く僕。
僕の姿に気がついたらしい奈菜は少し足早になって、俯きながら僕の横を通り過ぎようとした。
「藤岡」
僕が呼び止めると、奈菜はビクッと体を大きく反応させて立ち止まり、
俯いたまま“…はい”と返事をした。
「……あのさ…その……」
僕の声に肩をすくめて俯く奈菜は
両手をギュッと握って拳を作った。
それを目の当たりにして、
僕は愕然とし、今まで奈菜にしてきたことの重大さを改めて知る。
奈菜にそこまで心労を与えてしまっていたのか……
僕はゆっくりとまばたきをしながら、深呼吸を一つした。
「今まで辛く当たってゴメンな」
僕の急な言葉に、奈菜は驚くように顔を上げ、僕を見つめた後で首を大きく横に振った。
でも、奈菜の顔に表情はなく、
感情も持っていない。
そんな奈菜を見て、僕の胸は痛い程に締め付けられた。
ゴメン……
きっと、何度言葉にしても足りない……
無言のまま再び目を伏せた奈菜。
僕は思わず奈菜を抱きしめていた。
「先生?」
腕の中でそう呟いて、僕を見上げた奈菜が
無表情を崩すことは無かった。



