奈菜の言葉を最後に、僕たちは会話を失った。
奈菜と居ることにも嫌気が差し
やり場のない怒りを抱えた僕は
乱暴に車を走らせ菜奈の家に向かう。
互いに口を開くこともなく到着した車。
奈菜は小さく“ありがとう”と
車を降りる時にはいつも口にしている言葉を残して、ドアを閉めた。
僕はそれに何も答えないまま、
再び車を走らせる。
チラッと見るバックミラーに映った奈菜は、いつものように僕の車を佇んで見送っていた。
そして
戻った自分の家。
そこはいつもと何も変わらないのに、
いつもよりも侘びしくて、鍵をテーブルに置く時の音でさえ響き渡った。
僕はそのまま寝室に入り、着替えもせず、冷たいベッドに身を沈める。
『苦しそうだった』
奈菜の言葉が何度も脳裏に繰り返された。
いつからだろう?
会いたくて会いたくて仕方ない筈なのに、
菜奈を前にした途端、その思いが
苦しさに変わるようになったのは……
なんて…そんなことを今更考えても仕方ないか。
どんな理由があったとしても
奈菜が僕を裏切ったことには変わりないんだから。
奈菜のことを考えれば考える程に
怒りが込み上げてくる。
許せない……
翌日。
僕は奈菜へ対する怒りを払拭できないままに出勤する。
学校では極力、奈菜を見ないようにしていた。
しかし
6限目の英語の授業が終わって
僕が教室から出ようとしたところで、
奈菜は話しかけてきた。
それは、奈菜が入学してから初めてのこと。
「先生、お話したい事があるんですけど……
お時間を頂けませんか?」
上目遣いに僕の顔色を伺うように聞く奈菜。
奈菜が僕に話?
どうせ昨日のことだろ?
「悪いけど……
今、ここでなら聞くよ?」
僕は口角を少し上げて、奈菜を下目遣いに見て言った。
ここで…話せるわけないよな。
自分がした浮気の話なんて。
「そうですか……
それなら結構です」
やっぱりな。
今更、どんな言い訳をするつもりだったんだ?
まぁ、そんなの聞くつもりもないけど。
奈菜は肩を落とし、踵を返した。
それ以降
奈菜が僕に話しかけてくることは
もう無かった。



