僕の愛した生徒



それから、僕の悶々とした日々は続き、

その中で過ごす奈菜との時間。


奈菜は何も変わらない。

けれど

僕の脳裏からは、あの日の奈菜の姿が離れず

今ではもう、一緒にいても、
嬉しさよりも苦しさの方が大きくなっていた。



そのまま
仕事の都合などで、奈菜との時間もなかなか作れずに数日が過ぎた。




そして

久々に奈菜と波の音を聞きながら静かに過ごす車の中。


僕は昼間に見た、奈菜と秋山の姿を思い出していた。

じゃれるようにはしゃいでいた二人。

奈菜は無邪気な顔をして笑っていた。


それを遠目に見て僕は思った。



奈菜が僕の前で無邪気に笑わなくなったのは、僕のせい。

一番大好きだった

あの笑顔を奪ったのは…僕……




ふと横を見ると、助手席の奈菜は
ただ静かに前だけを見つめていた。



奈菜は何を見ているんだろう?


奈菜はいつか僕に言った。

『一緒に幸せになる』と。


奈菜は今、幸せか?


…違うよな……

きっと、苦しいだけだよな?



僕が奈菜を…この関係から解放してやらないといけないのかな。




僕は大きな息を吐いた。

それにクスリと笑う奈菜。


「また、秀の大きい溜め息」

「ごめん」


僕が謝ると奈菜は“いいよ”と言って再び前を向いた。



そこに、やけに響く波の音。

それが寂しさを煽る。


いっそのこと、この波が僕たちのこの想いを攫(さら)っていけばいいのに。




「ねぇ、秀?」


ふいに静かに声を発した奈菜。

“なに?”と、横を見ると奈菜は相変わらず前を向いたままで僕に聞いた。


「秀は私のこと…好き?」




“好き”

その一言が返せない……



奈菜は少しして“冗談だよ”と僕を冷やかすように笑って、僕を見つめた。


「秀、前に私に言ったよね?

“私が何をしても、どんな私でも
何も変わらない”って」


「言ったかな」


「それは今も変わらない?」


真剣な奈菜の目が僕を見据える。


「変わらないよ」

「本当に?」

「本当に」


「じゃあ、私が……」


言葉を止めた奈菜は目を閉じ、
大きな呼吸を一つして、静かに目を開けた。



「私が秀以外の人に抱かれたとしても?」