僕の愛した生徒



振り返る僕の前に立っていたのは

僕が新任として赴任した学校で、一年間だけお世話になった直江先生。


「久しぶり」

笑顔で軽く挨拶をする直江先生に

「ご無沙汰してます」

と、僕も挨拶を返すが、
目はあちこちに泳いで目を合わすことも出来ない。


隣にいる奈菜は小さく会釈すると僕の背中に隠れるように半歩下がった。



直江先生は奈菜をチラッと見て、奈菜に微笑みかけると

「小野先生にお世話になっている直江です」

と、奈菜にも挨拶をした。



それから僕と直江先生が
“そっちの学校はどう?”なんてそんな世間話をしていると、

そこへ“パパ~”と、3歳くらいの女の子が転びそうな足取りで駆けて来て、直江先生の足に腕を回した。


直江先生はその子の頭を撫でて
“ママは?”と訊く。

その子が“あっち”と後ろを指差して、僕もそれにつられてその先を見た。


そこには、その子を追いかけるように、紙袋をぶら下げてやって来る可愛らしさを兼ね備えた綺麗な女性。



直江先生の奥さんかな?


僕よりも若く見えるその人は
女の子に向かって
“お店で走っちゃダメでしょ”と優しく語りかけていた。


その後で直江先生が奥さんに僕を紹介すると、

「主人がいつもお世話になってます」

そう挨拶をして、奈菜の方に視線を移し、小首を傾げて一瞬ためらうように、奈菜に微笑みながら会釈した。


「こちらこそお世話になってます」

僕はそれを気にしないようにお決まりの挨拶を返す。


その後、奥さんが直江先生の足にしがみついている女の子に
“そら、ご挨拶は?”と促すと、その子は一歩前に出て、

「こんにちは。直江そらでしゅ」

と、可愛らしい挨拶をした。



それに奈菜は思わずとゆうように
“可愛い”と、そらちゃんの前にしゃがみ、

「そらちゃんはいくつですか?」

と、話しかけていた。


「しゃんしゃい」

そらちゃんは誇らしげに奈菜の前に三本の指を立てて見せる。


“来月でね”と奥さんが笑うと、そらちゃんは“来月でね”とオウム返しして、はにかんで笑った。


「お姉ちゃんはいくちゅでしゅか?」

「お姉ちゃんは……21歳」



“あと五年経ったらな……”

僕は心の中で苦笑いをして、奈菜にツッコミを入れる。

しかし次の瞬間に僕の胸はギュッと締め付けられた。



奈菜はそらちゃんに答えて笑顔を見せると、頭をよしよしして立ち上がる。


奈菜のその仕草が僕の切なさを煽っていった。