それから
僕たちは洋服を見たり、雑貨屋さんに入ったり、いろいろと見て回った。
しかし、奈菜の欲しい物も見つからず、そのまま時間は過ぎていき
時計に目を落とすと、お昼ちょっと過ぎ。
「奈菜、そろそろお腹が空かないか?」
僕は靴屋さんでブーツを試着している奈菜に声をかける。
「もう、そんな時間?
そう言えば、ちょっと減ってるかも」
奈菜は鏡の前でそう答え、そのブーツを脱ぐと元に戻して、僕の隣に並んだ。
そして、目指すはそのモールのレストラン街。
そこには、和食、中華、イタリアンなどのお店が建ち並び、
そこで、僕たちはお店のショーケースに飾られている本物そっくりな食品サンプルを見て回った。
でも、今はお昼時。
どのお店も満席で、店の前には順番待ちの人で溢れかえっていた。
「奈菜は何が食べたい?」
「秀は?」
「僕は何でもいいよ」
「そう?
じゃあ、ラーメンが食べたい」
奈菜の言葉で僕たちは、一度通り過ぎたラーメン屋へと背中を返す。
人混みをすり抜けながら、会話もままならず歩く僕たち。
僕は半歩後ろを歩く奈菜と離れないように、奈菜の手を掴む。
でも、その手は力を緩めれば離れてしまいそうで、僕はしっかり握りしめた。
それに応えるように握り返した奈菜の手が、
僕の心を占めている奈菜を更に大きくしていく……
お店の前にようやく辿り着き、ふいに離れた奈菜の手。
それが寂しい。
いつかは離れて行くであろう…手
でも、それまでは僕がその手を引いていくから。
僕は空いた手で、お店の前に準備されている表に記名する。
順番を数えると8番目。
それを奈菜に告げると、
「大丈夫。
待つのは嫌いじゃないから。
それに、その分、楽しみが増えるじゃない?」
と、奈菜は楽しさを滲ませて笑った。
実は待つことが得意ではない僕。
僕は奈菜に意地悪に訊いてみた。
「でも、さんざん待たされて期待通りにならなかったらどうするんだ?」
「その時はその時。
待った時間に無駄はないの。
その間に何かを得てるはずだから」
奈菜は得意顔で話し、
「…きっと……」
と、遠い目をして微笑みながら、呟くようにそう付け足した。
そして、話を続ける僕たち。
すると
「小野先生?」
突然、背後から僕を呼ぶ声がして
僕の心臓が大きく跳ね上がった。
顔が強張っていくのが自分でも分かる。
僕は恐る恐るそれに振り返った。



