そして、約束の日。
僕が待ち合わせの時間よりも少し前に、その場所で車を停め待っていると、小走りでやって来た奈菜。
僕は奈菜の出立ちを見て、
目を見開く。
“待たせてごめんね"と息を切らせながら車に乗り込んだ奈菜は
普段はしない化粧をし、
髪を少し切り、緩いパーマをかけて、いつもよりも落ち着いた雰囲気の服を身に着けていた。
「奈菜…その髪型……」
僕の口から思わず零れた言葉に、奈菜は
「似合う?」
と、照れくさそうに自分の指で何度か髪を梳いた。
「パーマをかけたのか?」
奈菜は僕の反応を見るようにコクンと頷いて、そして、笑顔を向け
「また、校則違反とか言いたいんでしょ?
でも、安心して。
今日だけ……学校が始まったらきちんと戻すから」
と知っている風に話した。
校則違反とか…僕にとっては
そうゆう問題じゃない。
だって今日の奈菜は
いつかの玲香…だから。
その姿に困却する僕をよそに、そんなことを知る由もない奈菜は
手に持っていたコンビニの袋から缶コーヒーを取り出しご機嫌に
“どうぞ"と僕に手渡して、
自分のミルクティーも取り出すと
ホルダーに置いた。
僕は何とも言うべき言葉が見つからず、ハンドルを握り、アクセルを踏む。
走り出した車の中で、
奈菜は今日のこの日を楽しみにしていたのか、
いつもよりも饒舌になっていた。
そして、話し終えると今度は、車窓を流れる風景を眺めながら
カーステレオから聴こえる曲に合わせて、膝に置いている手の指でリズムを取り、歌を口ずさんでいた。
でも、たまに歌詞を間違えたり、音を外す奈菜。
そんな奈菜が微笑ましく可愛い。
やっぱり、見た目がどうであれ
奈菜は奈菜だな。
僕は奈菜をチラリと見る。
奈菜は気持ち良さそうに決して上手とは言えない歌を歌っている。
その姿に、僕の中にさっきまであった複雑な心境はどこかへ消え去り、
僕の口元も自然と緩んでいた。
僕は奈菜がホルダーからミルクティーの缶を手に取るタイミングで奈菜に尋ねる。
「欲しいものは決まった?」
ミルクティーの缶を両手で包みながら、それに小さく頷いた奈菜は
「指輪が欲しい」
そう遠慮がちに答えた。



