僕の愛した生徒



お正月に実家でのんびり過ごした後は、自宅に帰っていつもの生活に戻る。


しかし、自分しかいない部屋は、
実家が賑やかだった分、静けさに包まれていて、どことなく寂しい。



そこで、僕の手は携帯に伸びて、押すのはリダイアル。


僕が実家で過ごしている間は、
奈菜と電話で話すことも、メールでのやり取りもほとんどなかったから、

数日ぶりに聞く奈菜の声に
僕の胸は震えた。



“明けましておめでとう"の挨拶から始まった電話は、時間が経つのも忘れるくらいに会話が弾んで

お正月の出来事を楽しそうに話す奈菜の声を聞きながら、その姿を想像して僕は頬を緩める。



奈菜に早く会いたいな。

もう、一週間も会ってない。



僕はふと、いつかの奈菜を思い出す。


僕の出張で数日間、奈菜と会えなかった時、合宿所で奈菜が

“5日間だけだろ?"と言う僕に


『“だけ”じゃないの。
5日間“も”なの』


そう口を尖らせて言ったこと。



あの時の僕には、奈菜が言った言葉の意味も、その理屈も分からなかったけど、

今なら分かる。


それが理屈じゃないことも。



「もう、一週間も奈菜に会っていないから、奈菜が足りない。

早く会たいな」

『……え?』

「一週間も奈菜に会えなくて寂しい」


僕の言葉に少し間を置いて


『……秀、なに大袈裟に言ってるのよ。
たったの一週間だけでしょ?』


電話の向こうで奈菜はアハハとぎこちなく笑った。



奈菜にとって僕と会えない一週間は

“も"じゃなくて“だけ"なのか?

“たった"なのか?



僕は“まぁ、そうだな"と奈菜に相槌をうった後で、

実家で過ごした時の事を話し、その中で、叔母さんの話も聞かせた。


「あの叔母さんには参ったよ」

『そう…秀もお年頃だもんね』


そう答えた奈菜の声のトーンは少し落ちていて、

その後の会話もどこかぎこちなくて、僕たちはそのまま“おやすみ"を言って電話を切った。