僕の愛した生徒



僕は何故か奈菜から顔を逸らせなくて、そのまま見つめる。

すると奈菜は突然、踵を返し、他のマネージャーの元へ走って行った。


僕はしばらく奈菜の様子を眺めた後で、椅子に座り

もう一度、大きな溜め息をついて
机に俯せた。





コンコンコン……


小さくドアを叩く音が聞こえて
僕は重い頭をおこす。



どうやら僕は、
窓越しに温かい日差しを背中にうけて、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。



覚めきらない頭のまま、
ゆっくり椅子から立ち上がると、
身なりを軽く整えて
“はい”と返事をしてからゆっくりと戸を開ける。



「やっぱりここにいた」

そこには喜ぶ子犬のような目で、安堵ともとれるような笑顔を浮かべる奈菜が立っていた。


「10分だけいい?」


奈菜の声に、僕が入り口を塞いでいた体をずらすと、奈菜は遠慮がちに部屋へ入り、

僕がドアを閉めると同時に

「秀、寝てたでしょ?」

と、僕の行動を見透かしたように得意顔で訊いた。


「わかるか?」


奈菜は人差し指を自分の口角に持っていくと


「ここにヨダレの跡がついてる」


そう言ってクスクス笑う。


僕は慌てて手首で口元を擦る。

その様子を見て奈菜は“うそ”とイタズラに笑った。


「大人をからかうなよ」

僕は不機嫌に言う。


「でも寝てたのは図星でしょ?」


また得意顔になる奈菜。

ズバリ言い当てられて反論出来ない僕は頭を掻く。


そんな僕に、奈菜は優しい眼差しを向け微笑んだ。



そんな愛おしい顔を

僕だけが知っている顔を

見せられたら……



先ほどまでの僕のモヤモヤは
もうどこかへ吹き飛んでいた。