「その言い方はズルいだろ」
僕は戸惑いを隠せないまま笑みを作って見せる。
ここで先生と呼ぶのは反則だろ。
奈菜に『先生』と呼ばれたら……
僕のこの想いは行き先を見失って
どうしていいのか分からなくなってしまう。
その時、藤岡さんの言葉がまた脳裏を駆けて、僕の心を何かが抉(えぐ)った。
僕の胸の内を知らない奈菜は
「ズルくないよ。
秀だってたまに“校則違反"とか言って先生になるじゃない。
だからいつものお返し」
と、子どもの目をして笑う。
その表情が僕を救ってくれる。
何度でも……
僕だけに見せてくれる
特別な顔だから。
「だから…それは職業病みたいなものでさ」
僕は苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「分かってるよ。
だから私も生徒病みたいな?」
「なんだよ、それ」
さりげない会話に
奈菜が笑って
僕もつられて笑う。
どのくらい振りだろう?
こんな風に二人で笑い合うの……
凄く心地がいい。
笑いが途切れて椅子に座ろうとする奈菜。
「ここへおいでよ」
僕は奈菜を自分の膝へと誘う。
「いいよ、椅子に座る。
秀、変なことしようとするから」
「もう、しないって」
“本当に?"と訝る奈菜に
僕が“本当に"と返すと
奈菜はゆっくり僕の膝に腰を掛けた。
そして、僕の腕が奈菜を包む。
こんな僕たちを
沈み始める太陽の光が
白いカーテンの隙間から差し込み照らした。



