ワンコールで電話に出た奈菜は
『秀?』
と声を弾ませ“久しぶりだね"と続けた。
「学校で毎日会ってるけどな」
僕のちょっとした意地悪な言葉に奈菜は“そうだね"と笑う。
『ずっと電話もメールも無かったから、いっぱい心配したんだよ?
嫌われちゃったんじゃないかとか
もう話せなかったらどうしょうとか不安になっちゃった』
「そんな訳ないだろ?
仕事が忙しかったんだよ」
僕は奈菜のお母さんと会ったことを口にはせず、仕事を言い訳にした。
『そっか、やっぱり先生って大変なんだね。
いつもお疲れ様です』
明るい奈菜の声に、ここ数日間、
ずっと僕の中でくすぶっていたモヤモヤが吹き飛ぶ。
「心配するくらいなら、奈菜から連絡をくれればいいのに」
『でも、私から連絡していいの?
仕事の邪魔にならない?』
少し小さくなる奈菜の声。
「そんなのならないよ。
いつ電話してきてくれてもかまわない。
だって、奈菜は僕の彼女なんだから」
そう言った後で僕の脳裏に
あの日の藤岡さんの言葉がよぎって、
僕は“彼女"と言ってしまったことにハッとした。
でも、そんなことを知らない奈菜は“うん"と嬉しそうな声で返事をして、
『例えば、放課後とか昼休憩とかでもいいの?』
と聞く。
「学校で携帯の使用は禁止だよ」
僕の真面目な答えに奈菜は
『先生みたいな事を言わないで下さ~い』
そうちゃかすように笑った。
この日の僕たちは
何故か電話を切ることを惜しみ、お互いに“おやすみ"を言い出せなくて、他愛のない話を続けていた。



