続く沈黙。
その中で、藤岡さんは僕の返事を催促することなく、
しばらくしてから、
声を出せない僕に
“相談とゆうのはそれだけです"と言って静かに席を立った。
結局、僕は何も答えられないままに、藤岡さんを玄関まで送る。
僕は靴を履く藤岡さんの後ろ姿を見つめ、振り返った藤岡さんに尋ねた。
「奈菜さんは今日お母さんがここに来られたことを?」
「奈菜は知りません」
「そうですか。分かりました」
僕がそう言うと、藤岡さんは深く丁寧なお辞儀をして
“奈菜とのこと、お願いします"
と最後に告げて、僕に背中を向け
僕はその背中に深くお辞儀した。
小さくなっていく藤岡さんを見送って、玄関から職員室に戻る途中
黄昏の中庭で、奈菜とサッカー部員のふざけあっている姿が僕の視界に入ってきた。
僕は立ち止まり、その姿を見つめながら大きな溜め息をつく。
奈菜、僕たちはどうするべきなんだろう?
奈菜の将来にとっては、どちらが幸せ?
もともとは僕の責任。
あの日、間違えて奈菜にキスさえしなければ、
今頃、僕たちは普通の先生と生徒でいられた筈なんだよな?
奈菜も普通の恋愛が出来ていたんだ。
後ろめたいことも、下手な嘘をつくようなこともなかった。
不意に僕の脳裏に奈菜の切ない瞳が浮かぶ。
奈菜…辛い思いをさせてごめん…
僕は奈菜たちの姿を横目に見ながら、足早に職員室へと向かった。



