僕の愛した生徒



「…あの…それは一体……」


僕は誤魔化す言葉を探すが、
そんな言葉は見つからず、

その間も、捕らえられた視線を逸らすことは出来ない。


全てを見透かすようなその瞳に

僕は事実を隠しきれないであろうことを悟った。



僕は静かに重い口を開く。


「それは…奈菜さんが?」

「いえ…あの子はそんなことを一言も言いません。

でもね、私は奈菜の母親です。
言われなくても気づきますよ?」


固かった藤岡さんの表情が少し緩んだ。


「先生もご存知だと思いますが、奈菜は真っ直ぐな子です。
嘘もつけません」

「そうですね。
奈菜さんは本当に真っ直ぐで、何に対しても一生懸命で正直です」


僕の言葉に藤岡さんは微笑み、
この部屋の空気も少し和んだ気がした。


そして、藤岡さんは話し始める。


「奈菜が家で学校の話をする時、いつも必ず先生の名前が出てくるんですよ。

その時の奈菜、凄く幸せそうな顔をして、嬉しそうに先生の話をするんです」



そんな話をされると、なんだか照れくさい。



どんな風に返事をしていいものか戸惑う僕に、藤岡さんは更に続けた。


「始めは、先生に片思いをしているだけだと思っていました。

でも、そうでは無かったみたいで……

最近、奈菜は急に大人びました。
片思いだけでは、あんなに変われない。

相手がいなければ……

でも、奈菜の話に出てくる男性は先生しかいません。


奈菜が出掛ける時や帰宅が遅くなる時は三津谷さんの名前が出るんですが、

本当は先生ですよね?」


藤岡さんは柔らかく、でも、どこか厳しい眼差しを僕に向けた。



奈菜は自分で“嘘が上手くなったでしょ?"なんて笑っていたが、


さすが母親だ。


すべてお見通し…か。