僕の愛した生徒



速いリズムを刻んで遠ざかっていく玲香のヒールの音。


それが聞こえなくなって、しばらくして

僕はベッドから重い腰を上げ、寝室のクローゼットを開けた。


そこで、今夜、玲香に渡す筈だった、綺麗にラッピングが施されている小さな箱を手に取って、リビングへ向かうと、

キッチンに置いてあるゴミ袋に叩きつけるようにそれを捨て、

まだ温かい鍋の中身を流し込んだ。




その翌日から、玲香は毎日のように電話をかけてきた。


しかし、今の僕はとてもじゃないが、冷静に話せる自信はない。

だから、それを無視し続けた。




それから一週間が過ぎ、

ある日、僕が仕事から帰ると、玄関の前に玲香が立っていた。


「秀平とちゃんと話がしたい」


今にも溢れ出そうな涙を瞳一杯に溜めて、玲香は訴えるような眼差しを僕に向けた。


「今更なにを話すんだ?
僕が玲香の言い訳を聞けばいいのか?」


玲香は首を横に振った。

「じゃあ何?」


僕が事務的に尋ねると、

多分、我慢できなくなったであろう玲香の涙が零れた。


僕は鍵を開けると仕方なく、玲香を部屋に通した。



ソファーに座り、鞄から出したハンカチで目を押さえる玲香。

僕はその様子を見ながら

「話したい事ってなに?」


と、ぶっきらぼうに尋ねる。



僕はもう玲香に優しくしてやることなんて出来なかった。


「ごめんなさい」


玲香は再び溢れる涙を拭いて、目を押さえた。


「もう、そんな事どうでもいいよ」

「…でも……」


「だってもう、終わりだろ?」


当たり前のように言い放った僕の一言に

玲香は目に当てていたハンカチを外し、大きな瞳から溢れ、頬を伝う涙をそのままに力無く呟いた。



「…秀…平」