「ねぇ、秀は私と出会う前に、違う誰かと出会ってたよね?」
奈菜は再び星空を見上げた。
その横顔が一瞬だけ僕に玲香を思い出させる。
「奈菜?」
奈菜は僕の方を向き、柔らかい笑顔を浮かべた。
「秀は私よりずっと年を重ねてるんだよ。
いくつかの過去があってもおかしくないよ。
寧ろ、ない方が怖い」
そう言って笑う奈菜に、
僕がどう答えていいものか困っていると、奈菜は続けた。
「私だって、初恋くらい済ませてるんだからね。
でも過去の恋って、いい思い出だよね」
得意気に話す奈菜の表情は優しいけど、いつものような無邪気さもあどけなさも無かった。
いい思い出……か。
「苦い思い出かな?」
「……苦い?」
奈菜は不思議そうに僕を見つめる。
きっと奈菜にはまだ分からないんだろうな。
苦い恋の意味。
「そう。この年になれば、いい思い出ばかりじゃないよ」
僕は苦笑いを浮かべる。
「そっか……」
奈菜は影を落とすように俯いた。
「秀、一つ聞いてもいい?」
「なにを?」
「………………」
俯いたままの奈菜は何も言わず、
僕が奈菜を覗き込むようにして、次の言葉を待っていると
奈菜は顔を上げ、僕を見つめると静かに尋ねた。
「どうして、前の彼女さんと別れたの?」



