その家の前には、数台の消防車が止っていた。すでに原型は留めていない家屋の残骸の上を、消防士たちが忙しげに動き回っている。野次馬は、もう興味も失せたのか、未だ薄く煙の昇るその家の周りには疎らにしか人がいなかった。

 その時、焼け跡の中から鋭い声が飛んできた。

「おい! 来てくれ! それと、警察と救急車の手配を頼む!!」

 俄かに騒がしくなった現場を醒めた、それとも無気力とでも言うのだろうか、何も映さないような漆黒の瞳で見つめる小さな人影が、少し離れたところにポツンと伸びていた。その人影が、ユラリと陽炎のように揺らめき動き出す。

 その足取りは覚束なく、傍から見ていた人がいたら思わず手助けをしたくなってしまうほどのものだったが、そこに救いの手を差し伸べる人は誰もいなかった。

 先ほどの騒ぎで、再び人が集まり出している。だが、その人物は野次馬たちには空気のような存在だった。誰も気づかない。誰も気にしない。そうして、その人物はいつしか雑踏に紛れていずこへと消えてしまった。