今にも崩れそうなあばら家の中に、身を寄せ合うようにして暮らす家族がいた。その日食べるものもすでに尽きた家族に残された道は限られている。

「あなた、せめてこの子だけでも……」

 骨と皮だけで出来ているのではないかと思えるほどやせ細った母親は、傍らでお腹をすかせて眠るやはりふくらみの欠片もない子供の髪の毛を優しくなでながら、虚ろな視線を父親に向けた。栄養が行き届かないためなのか、毛根もやせ細り疎らになった髪の毛がまた一房床に落ちる。母子同様、骸骨のような容貌の父親の、それでもその瞳だけは憎悪という名の生命力で溢れていた。

 ふとその父親の表情が明るいものに変わる。それは、ある種の狂気を孕んだものだった。母親はその変化にすら気づかずに、力ない手を機械的に動かし続けていた。その母親の目が、一瞬にして驚愕に打ち開かれ、次いで恐怖の色が宿った。

「あ、なた……?」

 父親の手は、少し力を入れただけで折れてしまいそうなほど細い母親の首にかかっていた。

「や、やめて……!」

 必死の抵抗を示すが、その力も徐々に弱まっていく。苦悶の表情を浮かべる母親越しには、この家には不釣合いなほど小さいながらも立派な額が壁にかかっているのが見えた。額の中には、父母と子供が幸せそうに微笑む、見ている者を幸せにしてしまうような絵が飾られていた。何かの賞の名残なのだろうか、その額縁には金賞と書かれた色褪せたリボンがかけられている。

「お、父さん?」

 ふいに横からの声に父親の手が緩む。しかし、父親の手の中の母親はぐったりとして動く気配がなかった。

「お父さん! 何してるの!?」