「―――…神様って奴はさ。意地悪いよな、ほんっと。人の人生を狂わせたり、人を泣かせたり、怒らせたり。なんでこんな意地悪バッカするんだろう」
 
 

ある日の晩。

秋本から家で飲まないかと誘われた俺は、彼女の部屋で晩酌を嗜んでいた。

アルコールを摂取しているか幾分、やや愚痴っぽくなってしまうのは仕方の無いこと。


俺の愚痴に相槌を打つ秋本は、冷酒を食道に滑らせて溜息。

「もう少し」楽しませてくれても良かったのにね、秋本が右隣に視線を流す。俺は左隣に視線を流して眉根を寄せた。


そこには静かに寝息を立てているお子さま一匹。
 

二時半だしな、俺達の晩酌に付き合えるほどオトナでもないから一人で夢路を歩いちまった。


なんてことない光景だけど、俺は親友の透け始めている姿に何とも言えぬ気持ちを抱く。


親友曰く、もう時間がないそうな。


数日もしないうちに2011年から消える。
そう教えてくれた親友の言うとおり、体の変化は目で見て分かるほど。


既にこいつの姿は特定の人間にしか見えていない。


やっぱ坂本は幽霊だったのかもしれないな。現実逃避まがいなことを口走りそうになった。


大概で酔っているな、俺。


まず幽霊は物を食わんだろ。

ついでに睡眠も欲しないだろ。
 

「坂本は1996年に帰れるのかしら? 遠藤」

「馬鹿、帰るんだよ。じゃないと…、俺が許さねぇよ」


幾ら親友とはいえ、許せることと許せないことがある。

もしも坂本が1996年に帰らなかったら、俺は本気でブチ切れるぞ。


1996年から2011年に来ました。
消滅しました。
終わりです。


…なんざ、到底許せるわけない。

坂本はきっと1996年に帰れるさ。