春は来ないと、彼が言った。



驚いた拍子に階段から足を踏み外し、身体がぐらりと後ろに傾いた。


踏み出した右足は、虚しくも空を切る。



お、落ちるっ!!



最悪なことに、最後の段をのぼり終えるところだった。



まだ死にたくない。



…幸か不幸か、そんなことを考えられる微妙な間はあった。


そしてきたる衝撃に肢体を震わせ、反射的にぎゅうっと瞳をきつく瞑った。