「私だって……!」

涙がこぼれ落ちる。
ジュリアは涙を散らしながら荒い足取りで歩み寄り、襟をつかむ。


「私だって、アスランの事好きだよ! でも貴方は結婚する!」

「ジュリア……」

目の前の彼が憎かった。


「国の為に貴方は結婚しなくてはならない! この結婚は果たさなくちゃならない!
 分かってくる癖に、そんなこと言わないでよ!」

彼は異国の姫と結婚する。
それは両国の平和の象徴として必要不可欠な結婚。
この結婚を果たす事で初めて戦争は終結すると言ってもいい。

だから、彼は結婚する。
結婚を放棄する事は、平和を放棄する事。
逃げれば、両国から追われる身となる。


分かっているはずなのに、どうして彼はそんなことを言うのか。
それがどうしようもなく腹立たしく、辛すぎる。


「結婚しなさいよ! どうせ私は使用人で貴方は伯爵、最初から私たちは結ばれないの」

「ジュリア……」

身分の違い、国によって決められた結婚。
二つの壁が二人の間に立ちはだかる。その壁は、決して破れない。破ってはいけない壁。


「諦めなさいよ! 私はもう、もう……とっくに諦めてるの!」

彼女の目から、止まることなく涙が溢れる。
ぐっと、アスランは彼女の両手を握る。



「それでも、俺はお前が好きだ」



ああ、どうして……


どうして彼はまっすぐなんだろう