プロポーズをした翌日に決められた婚約。
反対はした。でも、二人の関係の事は言えなかった。
言えば、ジュリアは解雇される。
そして結婚は絶対となる。平和のため、国のため、結婚する。
だけど……
『結婚しないで』
彼女の言葉が、脳内で響く。
何度も何度も繰り返し繰り返し響くあの言葉
今すぐにでも逃げたい。
彼女と二人で、逃げ出したい。
地位も、平和も、すべてを捨てて二人で逃げられたら、どんなに良いだろう。
だが、この国には父がいる。妹や弟もいる。
自分たちが逃げれば、彼らが迷惑を被る。
平和を放棄した一族という汚名を着せられることとなる。
できなかった。
家族を捨てて自分だけが逃げることは、自分は勿論、彼女もできないのだ。
このまま結婚。
彼女を捨てて、結婚する。
彼女と別れて結婚する。
それしか道がないのだ。
「…………」
手には花嫁に贈る結婚指輪。
母の形見の指輪。それを結婚指輪として使うことを決めたのは父。
本来なら、彼女に贈り、彼女の指で輝くはずだった指輪。
それが異国の姫の指にわたる。
こんな宿命を与えた神を呪った。
家族の為、国の為、平和の為、結婚しなくてはならない。
ジュリアとの結婚は、願ってはならない禁忌
叶わない運命。
この結婚は宿命。消して壊れない鎖。
もう、逃げられない。


